簿記のお話

簿記的思考のすすめ - その1 簿記はギブアンドテイクで理解できる

はじめに

税理士になるには簿記の知識が必要であり、合格しなければならない試験科目の一つである。

しかし「簿記」に対する世間一般の評価はきわめて低い。ゲーテは「簿記は人間が生んだもっともすばらしい発明の一つだ」と述べたそうだが(実教出版(株)発行・検定済高校簿記教科書「新簿記」p6)、技術的色彩が強く「細かい」「難しい」「めんどう」「おもしろくない」と敬遠されがちである。会計学が時代の変化に応じて「税効果」「時価」「減損」等新たな会計を提案しているのに比べ「複式簿記」という「完成型」を持つ簿記は新しい仕訳が追加されるようになるだけでテキストが大きく書き改められるわけでもない。しかも、パソコンや会計ソフトの進歩・普及で「簿記」を習ったことがなくても会計帳簿が作れるようになって「簿記論」は人の関心を引くことがない。

しかし、「簿記」的思考は人間にとって、社会人としてとても大切な「智恵」だと思う。以下、私の簿記的思考について述べてみたい。

簿記的思考とは

私の簿記的思考では簿記の前提条件(会計単位・会計期間・貨幣金額表示:新簿記p6-7)は無視している。借方・貸方という2つに分けて考える、という思考方法を楽しんでいるだけのことだから約束事に拘らないし、縛られるつもりがない。

従って家計に関する仕訳だろうが簿記の対象ではないといわれる行為であろうが借方・貸方に分けて考えてみる。これは簿記ではない、といわれればそうかもしれないが、私としては簿記仕訳の延長線上の思考である。

期間計算は考えない。貨幣金額への換算も行わない。むしろ物々交換で考える。貨幣も物々交換の一つ、交換価値としてオールマイティなだけと考える。
例えば7350円の買い物をして1万円札で支払ったとする。簿記の仕訳は以下の通りである。

これを物々交換で考えると次のようになる。

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簿記をギブ&テイクで考える

ところで、簿記的思考は物事を借方と貸方に分けて考えるということだが、借方=○○、貸方=△△という仕訳を考えているうちにそれが癖となってきた。例えば借方=メリット、貸方=デメリットと置き換えて考えていることがあった。メリット、デメリットを列挙し比較考量することは業務上有意義なことであったからドンドンそういう思考にはまっていった。そのうちメリット=テイク、デメリット=ギブに置き換えて考えるようになり、仕訳の借方、貸方がテイクとギブに置き換えることができることに気づいた。

※テイク:モノをいただくこと。あるいはサービスの提供を受けること。私が取引を行う「目的」である。
※ギブ:モノを差し上げること。あるいはサービスを提供すること。私が取引の目的を実現するための「手段」である。

取引はテイクという目的をギブという手段をもちいて実現するものだから、それを記録(仕訳)しようとすれば、まず「目的」を書き、次にそのための「手段」を書くことになる。横書きは左から右に書いていくから目的(借方)が左、手段(貸方)が右となる。

これは大発見である。簿記を学ぼうとして途中で挫折する人の大半は「借方・貸方」がわからないためである(挫折しなかった人たち、すなわち簿記を身につけた人たちも繰り返し繰り返しやっているうちに問題文を読んだだけで勘定科目が思い浮かぶようになった人たちばかりで「借方・貸方」の説明ができるひとはほとんどいない。できても相手を納得させることはほとんどない、といってよい)。しかし、借方=テイク、貸方=ギブなら仕訳をイメージできるはずである。

経済活動は基本的に交換取引、すなわちギブ&テイクである。従って「商品○○を仕入れて現金△△を払った」という取引は「現金をギブして商品をテイクした」と読み替えることができる。すなわち、借方(=テイク):商品○○/貸方(=ギブ):現金△△という仕訳である。「Aから○○円借金をした」という取引は「Aに借用証書を渡して(消費貸借契約に基づく金銭債権=請求権をギブして)現金○○円を受け取った(テイク)」ことになる。すなわち、借方(=テイク):現金○○/貸方(=ギブ):借入金○○という仕訳になる。では、「売上」はギブ&テイクのどちらか?売上とは相手に「商品を渡すこと」あるいは「サービスを提供すること」である。売ればお金がもらえるのだからテイクではないか、と思われがちだが(私も時々勘違いした)、ギブ&テイクという交換取引に分解してみると売上という行為は「私にとって」ギブであり、反対給付として受け取った現金がテイクである。

但し、ここまでの説明であれば借方=テイク、貸方=ギブでなくてもよい。借方=入ってくるもの、貸方=出ていくもの、という言葉に置き換えても説明できる(注)。実際そのような説明をされている税理士の方も多いであろう。従って、ただ単に借方、貸方の読み替えだけでは「大発見」というのはおこがましい。
では、貸方、借方をギブ&テイクに置き換えるメリットは何か?「借方」「貸方」という言葉の説明ができる、ということである。
ギブを受けたら(テイクしたら)埋め合わせを(こちらもギブ)する。これは取引の基本である。では、ギブだけ先に行われたらどうなるか。その場でテイクが行われなかったらどうなるか。ギブした人はどう思うか。ギブを受けた人はどう思うか。
テイクが「後でネ」となったとき、ギブした人は相手に「貸しとくネ」と言い、反対給付(相手のギブ)を確約させる。相手は「借りとくネ」と言い、「いつか埋め合わせをするからネ」とギブの履行を約束するはずである。すなわち、ギブは貸し、テイクは借りである。

以下、気づいたことをいくつか語録風に指摘しておきたい。

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簿記語録

「費用というのはテイク、何かをしていただいたんです。『感謝』の気持ちがあってもいいんではないでしょうか。『電気』のありがたみ、『修理』してもらった(再び使えるようになった)ありがたみ。それを『修理代○○円・・・。高い!相見積もりをとったらもっと安くやれる』とすぐギブのことを考えてしまう。ムダ遣いしていい、ということではありませんがテイクしていただいたことにもっと感謝してもいいんではないでしょうか。」

「税金もテイクです。どうしても『取られる』ギブの側から見てしまいます。でもテイクなんです。『対価性』は非常に希薄なんですが、してもらうんです。
だったら『もっとちゃんとしてよ』こう主張し、監視すべきなんです。

「よく勘定科目がわからないから仕訳ができない、という人がいます。実務(簿記)は学校の授業ではないんだから答えが一つ、とは限りません。他の人にもわかる科目名を自分で考えてつくればいいんです。短くて、しかも内容がわかり、普遍性がある、そんな科目名を考えられるところにその人の簿記会計センスが表れる、といえますが、長くたってかまいません。科目名にこだわってあまり悩まないようにして下さい。ただし科目名についての標準的な解説をしたものがありますから、辞書代わりお使いになることをおすすめします。でもこれは言葉で言えば『標準語』です。『方言』でも理解できるものであれば誤りではありません。例えば『現金』を『キャッシュ』と書いたら誤りか?少なくとも『×』にはできません。英語だから好ましくない、間違いだ、というんだったらリース料という科目は使っちゃあいけないことになります。」

「ギブ&テイクで考えていくと『負債』は『将来のギブ』と読み替えることができます。」
注:福沢諭吉著(訳)帳合之法 巻之一の第六丁、註の中で「借」と「貸」について日本人に分かり易くするため「出」と「入」に書き換えれば初学者に便利であり訳者にそれぐらいの頓知はあるけれども、これから外国との交易が増えてきて帳合も彼の国の風に接することが増えてくるのでわざと原書のまま直訳した、と述べている。なお、久保博正著絵とき版これならわかる簿記・経理(1982.8.25初版:日本実業出版社)では取引をキャッチボールに例えて説明しているため、投げる(出ていく)は右、受ける(入ってくる)は左と記入位置も説明できるよう配慮されている。

名古屋税理士界 第567号(平成 16年(2004年)11月10日)掲載

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