20世紀を生き抜くための「心」・「技」・「体」その21

はじめに

★ 2005年の21世紀地球EXPOが愛知県瀬戸市で開催されることになりました。テーマは環境に重点を置いた「新しい地球創造 自然の叡智」だそうです。開催地決定前、地元の環境保護団体が反対運動を展開し、そのことが開催地決定に当たって不利になるのでは、という危惧がありました。EXPOのテーマからすれば環境保護団体が先頭にたって誘致運動をするべきでしょう。反対しているのはEXPO開催のための開発行為が環境破壊につながるとみているからでしょう。「いや、具体的なことはまだ何も決めていない。これから自然を破壊しない開発行為を考えていくのだ。」ということのようですが、だからといって、環境保護団体にEXPOの企画をさせてみる、などということは考えられないでしょう。青写真はあっても公表しないだけで主導権をわたすということは考えられません。目的はEXPOの経済効果であって、テーマではないというのが本音のような気がします。日本開発銀行名古屋支店の試算によれば、来場者数は海外も含め2500万人と想定。来場者の消費支出約6000億円、交通・インフラ整備などの投資で約4000億円。波及効果約5000億円、合計1兆5000億円の経済効果があるとしています。これは、決定当初の見込みで、橋本首相の「お金のない時だからね」発言からいって国の財政的支援は期待できず、早くも規模縮小の懸念をする向きもあるようです。
 佐藤雅美著「薩摩藩経済官僚 回転資金をつくった幕末テクノクラート」(講談社文庫1989.6.15第1刷)という小説があります。主人公は調所(ずしょ)笑左衛門。ペリー来航(1853年)の二十数年前、五百万両にのぼる借金をかかえ、参勤交代もままならなかった薩摩藩の財政再建をてがけ、成功します。五百万両の借金を250年の分割払いというかたちで整理し(明治4年の廃藩置県で藩が消滅するまで約35年間返済を続けたそうです)、さらに三百万両をひねりだし、うち二百万両を長年ほったらかしにしていた公共事業につぎこみ、百万両を備蓄するという偉業を成し遂げます。この資金のおかげで薩摩藩は維新の、回天の大事業にのりだすことができました。著者によれば、調所には島津斉彬、西郷隆盛、大久保利通のような時代を見る目も、何をしたいというビジョンもなかったようですが、彼が資金をつくらなければ回天の大事業はしたくてもできなかったと指摘しています。空港の造成や道路整備は実績が目に見えますが、借金を減らしても見た目が地味で評価されません。調所のような人物を再評価できる時代になってほしいものです。

「技」・ミスミの購買代理店という発想

★a.・ミスミの平成8年3月期の申告所得は29億3192万円、平成8年度法人所得ランキングは第1402位で、金型部品やFA(ファクトリーオートメーション)機器用部品(高速の組立機械に使われる部品)をカタログ通販で売る個性派商社である。

★b.同社は1963年2月に、三井、三菱の“三”と住友の“住”から三住商事・という社名で設立、89年に現社名に変更、94年1月に東証2部に上場している。96年9月の社員数は195名である。

★c.ミスミは、供給(生産)側の言いなりに売るのではなく、「ユーザーが必要とするものをユーザーに代わって商品を揃える購買代理店」という発想を起点にユ-ザ-のニ-ズや問題点を吸い上げ、それを解決できるメ-カ-を探し、育てていくことによって、カタログだけで自然に売れていくという事業の仕組みを開発した。

★d.同業他社が行っているのは、メーカーの「販売代理店」的な売り方であり、例えばユーザーが「1個しか要らない」といっているのに「10個単位でしか売らない」という商売の仕方である。また、板材に穴をあけるパンチの場合、JIS規格に則った0.1mmごとのサイズのものしかつくられていなかった。ユーザーからは「0.1mmきざみでは大きすぎる。0.01mmきざみのものが欲しい」という要望があっても「それらに対応していたら製品の種類や商品在庫が途方もない量となる」として、どのメーカーも見て見ぬふりをしていた。

★e.ミスミは、0.01mmきざみにこたえるためハーフメイド(半製品生産)方式を考えつく。部品製作を半製品段階で一旦止め、ユーザーから注文を受けてからその指定寸法に仕上げて納品する。メーカーは共用できる半製品だけを在庫としてもち、すべての製品在庫を準備する必要はない。

★f.この方式は、きめ細かな生産管理、工程管理が前提になるためメ-カ-も後込みした。そんな中で静岡の駿河精機が名乗りをあげる。初めは思ったほど受注が伸びずトップに内緒で見込み発注をして駿河精機の稼働を支えたこともあったという。その後、経済成長の波に乗り受注が急激に増え、駿河精機は毎年売上高が50%前後ずつ増えるという高成長を続け、パンチ・アンド・ダイの分野では世界最大のメ-カ-に育っていく。この駿河精機の成功に刺激され、ミスミの協力メ-カ-は次々とハ-フメイド方式の導入に協力するようになる。メ-カ-はハ-フメイド方式を採用してミスミの協力工場になることにより1件あたりの注文ロットは小さいが需要の変動が少ない(安定している)、またミスミが協力メ-カ-間の品目を調整し、各メ-カ-は少ない品種に特化することで生産効率を上げることができる。生産設備や人員の稼働が確保され、在庫の負担が減る。煩わしい営業活動をミスミに任せられるというメリットも大きい。

★g.ミスミは、カタログに仕様、寸法、供給方法など細部にわたって明記し、納品の「保証」をすることによって信頼を勝ち取り、差別化をはかっていく。

★h.具体的には、合計12冊あるカタログに掲載されている13,500種、22万点の全商品について(1).品切れや生産中止をしない、という供給の保証(2).品種別、追加工の有無別に注文を受けてから出荷するまでの所要日数をカタログに明示する、という納期の保証(遵守率は99.88%)(3).発注数量別の価格をカタログに刷り込みカタログ有効期間中の値上げをしないことを約束、発注者が大口ユーザーであろうと小口ユーザーであろうと、同じ商品、同じ数量なら同一価格であり、カタログ表示価格からいっさい値引きもしない、という価格の保証、そして(4).品質の保証をしている。

★i.ミスミはユーザーの立場にたってメーカーに部品を発注する購買代理店であるが、ユーザーの言いなりではない。ユーザーの社内規格、特注品はたとえ大量発注であっても断ってしまう。ミスミは金型部品の標準化が供給側だけでなく、ユーザーにもコストや納期の面でメリットがあると主張する。ある営業マンがN自動車から売上の1カ月分に相当する特注品の注文を取ってきた時、社長の田口弘は「その注文はお断りしてきなさい」と指示し、こうつけ加えた。部品の標準化がミスミの存在価値であり、これをまげることは相手がたとえN社であってもできない。今回のような大量発注はミスミの多品種小ロット生産に馴染まない。対応するには大量の資材や生産能力が必要とされ、今回は受けたが、次はダメとなってはN社にも迷惑がかかる。ミスミの協力メーカーの生産体制や資材在庫の点で、将来も同じ価格と納期を保証できないから、と断らせている。その後、N社から標準品の注文がはいるようになり、納期尊守率の高さが気にいられて注文が急増している。

★j.以上、鈴木直人著「ミスミの企業家集団経営」(1996.5.16初版:ダイヤモンド社刊本体1553円)よりまとめてみました。ほかにも「オープンポリシー」「人事部の廃止」など経営のヒントになりそうなことが書かれています。もし、この本を読まれるのでしたら、ミスミのエピソードを紹介する<ドキュメント>とその解説にあたる<アナリシス>だけをさきに読まれることをお勧めします。<ベンチマーク>は必要を感じたところだけ後で読めばよいと思います。

★k.これまで代理店といえば(メーカーの)販売代理店でした。メーカーがつくったものを売ってくるのが仕事で、代理店として認めてもらうために(そしてその地位を維持するために)努力していました。ルートセールスで見込み客を回り、メーカーの製品を買ってもらっていました。購買代理店であるミスミにはルートセールスがありません。ミスミの購買代理店は卸屋さんより小売り屋さんと考えた方がわかりやすいかもしれません。店を構えて買い物客を待つようにカタログを配って注文書が送られてくるのを待ちます。仕入れ先の顔色をうかがうことなく売れるものを店に並べます(ミスミはカタログに掲載します)。最近ホームセンターを足がかりに販売を展開する話を聞きました。一つはメーカーがホームセンターへ直接製品を売る話。もう一つは建材の販売代理店がホームセンターの一隅にコンピュータを持ち込み、その場で改装工事の見積をして工事の受注を取る作戦です。小売り発想の参考になれば幸いです。

「技」童門冬二の時間活用法

★a.童門式「超」時間活用法(1997.3.7初版:中央公論社刊本体1000円)という本の腰巻きに次のようなセールスコピーが書かれている。
 「連載月に20本・書下し同時進行多数、旺盛な創作活動の傍ら、月20回に及講演をこなし、新作映画のほとんどを観るこれらにかかる時間を一体どう捻出しているのか。超多忙作家が初めて自らの企業秘密を明かす。」

★b.童門氏は歴史上の人物や出来事を現在に置き換えながら話を展開する。たとえば戦国武将を企業経営者に置き換える。経営的観点からみれば、毛利元就は「中国地方における異業種連合の組合長」であるという。

★c.童門氏の時間管理法は「自分を苦しめる手かせ足かせとなる“世間の常識”や“ルール化された慣行”からの自己解放」によって行われる。たとえば次のようなことである。

★d.例えば睡眠時間は6時間以上とらないといけない、という時間に対する義務感(拘束感)は捨てる。そういうものを持っていると、逆にそれが日中の行動に悪影響を与える。ゆうべ3時間しか寝ていないから頭が重い、だの仕事がはかどらないといった言い訳をし、済んでしまったゆうべの行動に悪態をついたりする。たとえ3時間しか寝なくても、ゆうべの眠りはゆうべで決着がついたんだ、足りなかったら今日取り返せばいい、と考えて睡眠時間にこだわらない。童門氏の睡眠時間は3、4時間である。しかし、講演などで旅行する車中で居眠りをして小刻みに補充している。ただし3時間しか寝てないから補充しておかないと、というこだわりはない。

★e.酒の付き合いはしても、二次会、三次会は絶対につきあわない。一次会で失礼する。というのは、(1)二次会、三次会と続けるうちにその集いの目的であった「懇親」や「仕事の話」などが次第にうすれ、(2) 段々愚痴っぽくなり、そこにいない人間の悪口を言い合ったりする、(3)自分や他人の醜悪な一面をさらけ出してしまい逆に人間関係を悪化させる、(4)それなら、多少不義理となっても付き合いは一次会までとさせていただいた方がよい。それに「もう命の持ち時間がそれほどない。これくらいの我がままは許してほしい」という口実を設けて帰ることにしている。

★f.童門氏の原稿は(1).本人によるテ-プレコ-ダ-への吹き込み(2).専門家によるワ-プロ起こし(3).本人による原稿推敲、校正という共同作業によって行われる。手で書いていた時は、1時間に四百字詰め原稿用紙5枚というペ-スだった。吹き込みなら60分テ-プで原稿用紙30枚から40枚、90分テ-プなら50枚から60枚の原稿に仕上がっていく。「3行あけてください。そこに後で見出しを入れます。では4行目の2字目からお願いします。」「どうもんのどうは、わらべの童です。もんはゲイトです。」口で言っても理解してもらえないような字はメモを用意する。「メモの一枚目の上の方にあります。そこを見てください。」
メモに書き込むことが多く、また引用する参考資料があるときは、その資料を破りコピーをつくる。「これから言うことは、本から破いたコピーがあります。その何ページの何行目を見てください。赤い線が引いてあります。固有名詞はその辺を見ながら参考にしてください。」このような指示をしながら60分テープの吹き込みであれば、資料読みなどの下調べ時間を含め2時間半から3時間かかる。手書きならせいぜい15枚の原稿だから原稿推敲、校正作業をいれても2倍のペースである。吹き込みする内容が頭の中で組み立てられているのは「ハコ書き」と呼ばれる手法が身についているからであると述べているが(p41)、モノ書きのプロ以外は不要なテクニックなのでここでは紹介しない。ここのポイントは人に頼んで時間効率がよいのならそうする、ということである。

★g.童門氏は、本の必要部分を破く。これを「虐書」とよんでいる。このため保存用の原本を含め同じ本を2冊から3冊買う。あちこちの本から破いてきた現物やコピー(そのときは破いた現物を元に戻す)を組み合わせるとそのテーマに関する自家製の新しい資料の集大成ができる。

★h.童門氏はFAXを大いに使う。定型化できるものは全て事前に刷っておき、あらためて作るというムダをはぶく。やりたくないことや、相手に何か嫌なことを言わなければいけない時など、面談や電話と違って矛先が鈍ることもないしこちらの意向を伝える時間を気にする必要もない。

★i.童門冬二氏の著作に「細井平洲の人間学」(1993.8.6第1刷:PHP研究所)がある。所長の細井豊が同じ細井姓という単純な理由で購入したところ、わずか2日で読んでしまい、出版社に問い合わせて先生の住所を聞き出し、手紙と「細井平洲」をたたえる民謡の歌詞をコピ-して送ったことがあります。数日後童門先生より先生の著作7冊にサインをして送っていただき、思いがけない贈り物に感激したことがあります。

「心」えせプラス思考という考え方

★a.渋谷直樹著「すべての存在へ」(1997.6.17初版:総合法令出版刊本体1600円)に“えせプラス思考”という言葉が出てくる(p75)。モノには両面があり、プラス思考があったらマイナス思考もあっていい。プラスス思考を、イヤなもの、怖いもの見たくないもの、そしてクサいものにフタをするために使っていませんか?マイナスを想定して、プレッシャ-から逃げるために、それを考えないようプラス発想のふりだけをしていませんか?

★b.本当のプラス思考には、プラスもマイナスもない。それらを全て包括して受け入れてしまおうというのが、本当のプラス思考だと思います。あるがままを受け止めよ、ということですが“わがまま”ということではありません。

★c.プラス発想が私の信条ですが、より深く考えさせられる指摘でした。