20世紀を生き抜くための「心」・「技」・「体」その33

はじめに
「技」稲盛和夫の著書「稲盛和夫の実学ー経営と会計」と「敬天愛人」(PHP:1997.5.6第1版) より

「はじめに」

★あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

年末から年始、年度末(3月)にかけて事務所では不要な書類が大量に発生します。「年末調整」や「法定調書」「償却資産」「青色申告決算」「確定申告」の手引きなどの説明書類、源泉徴収簿や青色申 最近はコンピュ-タ-で出力するため、役所から送られてくる書類や用紙の大半が使われることなくゴミ箱また計算や申告がすめば不要となる説明書はいわゆる「ざら紙」と呼ばれる再生紙、長期保存が要求される記入用紙にはそれよりは良質の用紙が使われています。行政の処理としては妥当・適切なものといわざるを得ませんが、不要書類の処分をしている会計事務所からみると大量の無駄が発生しているように映ります。

 会計事務所や一般企業がコピ-機やコンピュ-タ-を使うようになってから紙を大量に消費するようになった(役所から支給されても使われずに破棄処分する書類も含めて)ように思います。大量に消費される紙のうち、その多くが必要がなくなって破棄処分となっているように思います。新聞紙のように廃品回収に回される用紙もありますが、事務所で不要となった紙は回収ル-トがなく「燃えるゴミ」に出しています。かつて、廃品回収業者から雑誌などを引き取るにはこちらがお金を払わないといけない、といわれたことがあります(今ではお金を出しても無理のようです)。資源として再利用されるならよけいにお金がかかっても回収に協力したいと私は思います。平成10年12月16日の中日新聞夕刊に犬山市が焼却処分される予定の機密文書を全く読めないよう裁断し、その裁断くずを製紙会社に持ち込んでトイレットぺ-パ-に再生し、1個20円で買って公共施設で利用しているという記事が掲載されていました。裁断くず1キロにつき7円の引き取り運賃もかかり「燃やす方が確実に安い」そうですがゴミ減量やリサイクルへの取り組みをアピ-ルするためにも実施しているそうです。私もゴミ減量やリサイクルという地球環境保護につながる行政にコスト(税負担)がかかるのなら喜んで負担したいと思います。燃えるゴミと燃えないゴミという2つの区分しかないから焼却と埋め立てという方法になります。焼却や埋め立てなどというリサイクルに結びつかない回収は月に1回有料とし、生ゴミに限定した回収をこれまで通り週2回(生ゴミだけなら有機肥料になります)、資源ゴミは週1回とすればゴミを家庭にいつまでも置いておきたくないから分別回収に協力的になるのではないでしょうか。また、紙の再生事業に携わる人たちを準公務員にして守秘義務を課してしまえば不要書類の再生紙化にあたってプライバシ-保護に神経質にならずにすみ、余分な手間をかけなくてすみます。そうすれば国策として税金を支出しやすくなります。資源のない国日本が使い捨てを続け資源を大事にしない政治をしているというのは何かおかしいと思います。

 ところで、資源の再利用を促進するためにはリサイクル事業が採算ベ-スにのる必要があります。事務所でもコピ-や会計帳簿の出力に使う用紙を前回購入分から再生紙に切り替えることにしました。紙の購入単価は再生紙でない方がずっと安い(再生紙の6割ぐらいで買える)のですが、それで切り倒す木が1本でも減るとしたらそのほうが大切なことだと私は思います。

 なお「紙のリサイクル100の知識」から一部を参考資料として同封いたします。

「技」稲盛和夫の著書「稲盛和夫の実学ー経営と会計」と「敬天愛人」(PHP:1997.5.6第1版) より

★a.前回のメモに「稲盛和夫の実学」の要旨をまとめたトップポイント12月号の記事を同封した。記事では序章と第一部を中心にまとめられている。ちなみに第二部「経営のための会計学の実践」には稲盛氏が主催する勉強会「盛和会」での5つの経営問答が掲載されている。とりあえずは序章と第一部をお読みいただければ十分である(そこまでなら162ページである)。ここではトップポイントの記事とできるだけ重複しないよう補足説明をしたい。

★b.1対1対応の原則:モノ(製品・商品)と伝票(納品書)は必ず1対1の対応を保たなければならない。京セラの創業当初、約束の納期とは別に「とにかくできた分だけでもすぐに持ってくるように」とか「大至急必要になった。夜中になってもいいから何とか届けてくれ」といわれて用意できた分だけ営業が品物を置いてくることがよくあった。夜中で正規の事務処理ができず「明日伝票を作ろう」と思いながら忙しくて忘れてしまう。あとになって確認のとりようがなくなって伝票処理ができず、お金がもらえないことが何度もあった。顧客満足と経理処理を正確に行なうことは別のことであり、どちらも徹底しなければならない(p76-p77)。

★c.筋肉質経営の原則:もし中古品で間に合うのであれば、それで我慢し創意工夫をこらしていかに使いこなすかを考える。創業間もないころ、競合するアメリカのセラミックメーカーを見学したことがある。そこではドイツ製のスピードも性能もすばらしい機械が稼動していた。いくらするのか質問したところ京セラで稼動している機械の何十倍もする機械であった。稲盛氏は「うちの機械でもこの機械の半分の生産性はある。だったら設備投資の効率はうちの方がいい」と思ったという(p81-p82)。

★d.筋肉質経営の原則:原材料などの購買について、その月に必要な分を必要なだけ毎月買い、余分に買わない。稲盛氏は子供のころ母親が農家の人から安いからと大量に野菜を買い込んで腐らせてしまい「こういう嫁さんなら所帯がつぶれてしまうかもしれない」と思ったという。これと似たようなことは、どこの会社や家庭でもよく起こることではないだろうか(p94-p99)。

a冷蔵庫で食べ物を腐らせた経験をした人はかなりあると思います。

★e.完璧主義の原則:経理などの事務職はミスを犯しても消しゴムで直せるぐらいに思っている。完璧主義を守ろうという姿勢があればミスは起こりにくくなる。稲盛氏は月次決算書を真剣に見ていると、数字の間の矛盾やおかしな数字が、どういうわけか目に飛び込んでくる。精魂を込めて見ていると、パッと見ていても間違っている数字や問題のある数字がまるで助けを求めるように目の前に飛び出してくる。反対に事前に数字がすべて十分にチェックされた資料であれば、同氏がいくら見ていても気にかかる点を見出せない(p104-p106)。

a税理士・公認会計士などの職業会計人や税務署の調査官など会計記録をみることを仕事にしている人間の中には稲盛氏のように問題点が目に飛び込んでくる経験をしている人が少なからずあると思います。私も全部を見たわけでもないのに問題点を見つけだした経験があります。「偶然」で片づけてしまうこともできますが稲盛氏が述べておられるように直感的にそのことがわかると考える方が合理的であると思います。ある不動産会社の社長は売りにでている物件リストをバラバラと何気なく見ていて突然、指が止まり「この物件、売り主に交渉してこい」と指示をとばすそうです。その物件情報をよく見ると、確かに他に比べて買いたくなるような物件であることが多いのだそうです。本人は意識していないと思いますが、きっと稲盛氏と同じように目に飛び込んできたのではないでしょうか。

★f.事業において売り上げを最大限に伸ばしていくには「製品・商品」の値段のつけ方が決め手となる。顧客が喜んで買ってくれる最高の値段を見抜いてその値段で売る。値決めは経営と直結する重要な仕事でありそれを決定するのは経営者の仕事である(p32-p33)。自由な競争が行なわれる市場経済ではマーケットの売値はつねに激しく変化する。そうであるなら固定した(販売)価格や固定した原価を前提とする経営はありえない。この様な考え方に基づき仕掛品や製品の評価に当たっては製造にかかったコストの積み上げによって原価を求めるのではなく、その製品にあてはまる原価率をあらかじめ計算し、この率を売値にかけて原価計算をする「売価還元法」を採用している。これによってアメーバ経営という小集団独立採算制度の導入が可能となる(p139-p143)。

★g.敬天愛人とは「西郷南洲翁遺訓」の中にある言葉で、天は道理であり、道理を守ることが敬天である。また人は皆自分の同胞であり、仁の心をもって衆を愛することが愛人の意味である。この言葉は京セラの社是になっている(同書p16、以下同じ)。

★h.京都セラミック株式会社は設立2年目の1960年に高卒の新入社員を10名ほど採用した。彼らが1年ほど働き、仕事を覚えたころ連判状を持って待遇保証の団交(昇級や賞与の最低保証)を申し入れてきた。設立間もない時期に待遇保証を約束しても嘘になる。できる見込みのないことを保証することはできず、稲盛氏は彼らと三日三晩話し合いをして要求を撤回してもらった。この事件で、従業員は何年も先までの待遇改善を期待し、家族まで含めた将来にわたる保証を会社に求めていることを知った。企業を経営するということは、現在及び将来にわたり従業員やその家族の生活を守っていく、ということであり、経営者は全能力を傾けて従業員が幸福になれるよう最善を尽くさなくてはいけないという教訓を得た(p39-p45)。

★i.技術者としての稲盛氏が研究開発に携わってきた方法は、たとえて言えば狩猟民族が獲物を追いつめるようなものである。槍一本で獲物の足跡をたどりながら、不眠不休で追い続け、追いつめ、なんとしてもしとめる。「どうしてもこうありたい」という願望、「なんとしてもやり遂げねばならない」という責任感、さらに「弱音を吐くな」と自分を励ます意志を持って、最後までやり遂げるのである。

★j.稲盛氏は常々「潜在意識まで透徹するほど強烈な願望を持ち続けることによって、自分の立てた目標を貫徹しよう」と社内で言っている。強い願望であれば必ず目標が成就される。なぜなら願望が強烈であれば、自らの潜在意識にまで深く浸透し、その潜在意識下の願望が、本人が寝ているときでも何も考えていないようなときでも働いて、願望成就に至る行動をとらしめるからである(p80-p81)。

★k.人生における目標は志の高いものでなければならない。レベルの低い、後ろめたい志では、いつか意欲も削がれてしまう。積極的で強い情熱であれば必ず成功すると言われているが、その情熱が歪んだものなら、成功する原因が没落の原因となることもある(p86-p87)。

★ l.稲盛氏は電気通信事業である第二電電創立を考えたとき次のような自問自答をしたという。「大衆のために長距離電話料金を安くしたいという純粋な動機からだけなのか。自分を世間によく見せたいという私心がありはしないか。単なるスタンドプレ-ではないのか。」そして「動機善なりや、私心なかりしか」と夜毎自らに問いかけ半年後にようやく「動機は善であり、私心はない」と確信したという(p137-p138)

★m.稲盛氏の仕事や人生の成果を表す方程式は次のようなものである(p103-p108)。

 人生・仕事の結果=「考え方」×「熱意」×「能力」

三つの要素のうち「能力」は多分に先天的なものであり、個人差がある。点数で表せば0点から100点まである。

「能力」に「熱意」という要素を掛ける。熱意は「努力」と言い換えてもよい。同じく個人差があり、0点から100点まである。

「考え方」はその人の魂から発するもので、生きる姿勢と言ってもよい。この姿勢が人間として正しいものかどうかが問われてくる。点数で表せば-100点から+100点まで大きな振幅がある。