YTAメモ《暫定》版 その3
「技」簿記はギブ&テイクで理解する-その1より
「技」簿記はギブ&テイクで理解する-その1
★a.簿記は「帳簿記入」からきたものだという。つまり、取引を記録することであり、帳簿を作成するための技 術である。
★b.たとえば現金の出入り(増減)を記録したものを現金出納帳という。かつては、「○月○日○○より入金 ○○円、手元有り高○○円」「△月△日△△へ出金△△円、手元有り高△△円」というように入金記録も出金 記録も同じ書き方で記録され「列」の活用はされていなかったと思われる(たとえば大福帳の形式)。これを 「月」「日」「摘要」「入金」「出金」「残高」の列に分け「単位:円」 を書き込むことによって(帳票フォ ームのかたちで)帳簿記入のルールが明示される。
★
c.次に、取引の二面性に着目して「入金」「出金」を取引内容別に記録しようとする。「単式簿記」から「複 式簿記」への移行である。「今いくら残高が残っているか」から「何にいくら使ったのか」「収入内訳は何 か」といった各取引の「なかみ」別の記入である。
*取引の二面性については、たとえば次のような説明がなされてい
る。「商品を売って現金を受け取った」という取引の場合「現金
を受け取った」という現金出納の側面だけで取引を考えるのは不
十分である。 「現金を受け取った」というだけではどんな取引
なのかがわからない。現金を受け取るには何らかの理由がある。
この場合「商品を売った」という理由がある。取引が発生したと
きには「現金を受け取った」という側面と「商品を売った」とい
う側面を見なければ取引の内容がわからない。
取引には「原因」と「結果」がある。「商品を売って現金を受
け取った」という取引では「商品を売った」という原因があって
「現金を受け取った」という結果がある。「商品を仕入れて現金
を支払った」という取引では「商品を仕入れた」という原因があ
って「現金を支払った」という結果がある。すなわち、取引の二
面性とは「原因となる側面」と「結果となる側面」と理解すれば
よい、としている。
★d.複式簿記の元帳になると、現金出納帳のように「入金」の列と「出金」の列に分けていたものが「借方」と 「貸方」という分け方に変わる。取引の二面性から取引要素を右側と左側に分けるだけのことであるが、この 「借方」と「貸方」についてきちんと説明したテキストがない。符丁にすぎないとか、今は理解できなくても いいから、そういうものだと(ここでは)理解して資産、負債、資本、収益、費用という取引の5要素の組み 合わせに話を進めてしまう。
★e.今は理解できなくても、というがきちんと納得のいくような説明がないのだから理解できるわけがない。し かし、理解しやすい説明方法が見つからなかったために「借方」「貸方」の説明を放棄し、とりあえず覚えて しまえ、そのうちわかるようになると解説を進める。実際簿記がわかるといっても、とりあえず5要素の組み 合わせを覚えているうちに理解できるようになった人たちばかりで、なぜ借方、貸方なのか説明できる人はほ とんどいないといってよい(これについてはn.で説明する)。
★f.簿記の仕訳は(取引を記録するフォーム)は日付、借方科目、借方金額、貸方科目、貸方金額、摘要であるが、このうち「交換取引仕訳」については借方=テイク(TAKE)、貸方=ギブ(GIVE)と読みかえて理解すればよいことに気がついた。すなわち、取引の二面性に着目し、ギブするものを貸方に、テイクするものを借方に書けば仕訳が作成できる(理解できる)ということである。取引の二面性を「原因」と「結果」に分けてしまうと原因や結果が借方にも貸方にもくるので読み替えができない。
*TAKE:あなたは何を私に提供してくれますか。モノをいただ
くこと。あるいはサービスの提供を受けること。取引
の「目的」である。
*GIVE:私はあなたに何を差し上げますか。モノを差し上げる
こと。あるいはサービスを提供すること。取引の目的
を実現するための「手段」である。
★g.ギブ&テイクで仕訳を理解すると「現金出納帳」から説明をはじめるのではなく、人間の経済活動の始まりである「物々交換」から仕訳が始まる。たとえば、「米○○を布△△と交換する」という取引である。これは米○○を提供(ギブ)して布△△を受給(テイク)するということである。
★h.ではこれを仕訳として記録してみよう。テイクは目的、ギブはそのための手段である。上記物々交換は布△ △が欲しいから米○○を提供する。だから「目的」から先に書く。取引(物々交換)を横書きで表現するとす れば「目的」を先に(左側に)書き、次に(右側に)そのための「手段」を書く。
★i.たとえば、Aは自分が持っていた米○○をBの持っていた布△△と交換した、という取引を記録すれば、次 のようになる。
Aの取引は、 布 △△ / 米 ○○
Bの取引は、 米 ○○ / 布 △△
仕訳で言えば「テイク(借方)科目-目的」「テイク数量」「ギブ(貸方)科目-手段」「ギブ数量」である。
★j.ところで物々交換するものは大きいのも小さいのもある。交換単位が飛び、間を取れないから双方が納得する交換が常に成立するとは限らない。そこで物々交換のオールマイティとして「貨幣」が登場する。物と物との物々交換が物と貨幣との交換取引に変わっていき、さらに、貨幣の流通(普及)により貨幣取引に集約される。(物と物との交換取引はほとんどなくなってしまう。)
*貨幣:物々交換の共通言語。物々交換を数量的に把握できるもの
。物々交換を共通のモノサシ(尺度)で数量化したもの。これに
より物の価値が明確になり、物々交換の交渉から価格交渉に変わる。
★k.「物と物との交換」から「物と貨幣との交換」への移行により取引の記録も変わってくる。仕訳で言えば、 「テイク(借方)科目-目的」「金額」「ギブ(貸方)科目-手段」「金額」「摘要(数量)」である。貨幣と交 換される「テイク数量」または「ギブ数量」が 共通言語の貨幣「金額」に置き換えられ(ギブとテイクは同 価値だから同じ金額である ーこれを簿記では「貸借平均の原則」という)、テイクまたはギブ「数量」は新 たな表示項目「摘要」に記録される。
★
l.話は変わるが、英語を習いはじめたころ、こんな話を聞いたことがある。アメリカで 7ドル50セントの買 い物をして10ドル紙幣で支払ったとする。お店の人が「7ドル50セント」と言って、まず品物を渡してくれ る。次にクォーター(25セント硬貨)を2枚渡して「8ドル」と言い、次に1ドル紙幣を渡して「9ドル」、 さらに1ドル紙幣を渡して「10ドル、OK?」と言い、こちらが渡した「10ドル」紙幣を見せて「サンキ ュー」と声をかけレジにしまう、という話である。口の悪い人が、アメリカ人は足し算はできても引き算がで きないからこういうやり方をするんだ、とコメントしていたような気がするが、物々交換、交換取引から言え ば非常に「理にかなった」やり方、計算のしかたである、と思う。これを貨幣取引として仕訳すれば【テイク】 【金額】 【ギブ】 【金額】 【摘要】
お店は、 現金 7.5$ / 売上 7.5$ 商品を販売
お客は、 品物 7.5$ / 現金 7.5$ お店で購入
となる。これを物々交換として仕訳すれば
【テイク】 【数量】 【ギブ】 【数量】
お店は、 10$紙幣 1枚 / 品物 1個
/ 25セント硬貨 2枚
/ 1$紙幣 2枚
お客は、 品物 1個 / 10$紙幣 1枚
25セント硬貨 2枚 /
1$紙幣 2枚 /となる。このように交換取引の表示項目(テイクまたはギブ、あるいは両方)が複数になる仕訳を「複合仕訳」という。
★m.さて、給与の支払取引も品物代金とお釣りの関係によく似たところがある。例えば給料が20万円だとしてそれがそのままもらえるのではなく、いくつかの控除(天引き)取引が介在する。例えば①健康保険料000円、②厚生年金保険料000円、③雇用保険料00円、④源泉所得税000円などで、⑤差し引き支給額(本人が受け取る現金)0000円。つまり①から⑤までの合計20万円との交換取引になる。ところで、①から ④までの取引(ギブ&テイク)の当事者は給与支払者ではない。①と②は社会保険庁、③は公共職業安定所、 ④は税務署と給与受給者とのギブ&テイクで、給与支払者はその取引を代行しているだけである。
★n.ここで、取引仕訳の左側を「借方」右側を「貸方」というのかについて説明しておきたい。交換取引は△△が欲しいから○○を提供(ギブ)し△△を獲得(テイク)する。取引(物々交換)を横書きで表現するとすれ ば「目的」を先に(左側に)書き、次に(右側に)そのための「手段」を書く。「ギブ」も「テイク」も「ギブ&テイク」という交換取引の一部であって「ギブ」だけでは取引にならない(テイクも同じである)。「ギブ」は「テイクの反対給付」「テイク」は「ギブの反対給付」である。仮に一方的に「ギブ(提供)」したとするとギブした相手に対する「貸し」一方的に「テイク(獲得)」したとすればテイクした相手に対する「借り」となる。卑近な例で言えば「恩」の貸し借りである。「○○さんには世話になった」といえば「いろいろと(テイク)していただいたが何も(ギブ)していない。いつか埋め合わせをしないといけない」ということである。言い換えれば「○○さんには『借り』がある」となる。その反対は「貸しがある」となる。すなわち「テイク」は取引要素の性質から見ると「借り」であり、同じく「ギブ」は「貸し」となるのである。そこで「目的ーテイク」を「借方」「手段ーギブ」を「貸方」と呼ぶことにした、と理解するのである。
★o.これを「資産」「負債」「資本」「収益」「費用」という取引の5要素の組み合わせで説明しようとすると 「勘定科目名」で混乱をきたすことがある。というのは「勘定科目名」は「テイク」や「ギブ」の内容を簡潔 にわかりやすく表現したものであるが、ギブやテイクの「反対給付」を表現した名称になることがあるからで ある。例えば、「借方」科目に「貸付金」「貸方」科目に「借入金」があるため「借方」と「貸方」は配置が 逆なのではないか、と思ってしまう。勘定科目名は取引の相手(科目)に目がいく(注目する)から逆になる。 お金をもらったから「借り」、渡したから「貸し」となる。借入という行為はそれだけとらえれば「借金を返 す」という一方的な債務負担行為(相手に現金受領の権利を与える行為=ギブ)である。(たとえば保証人の ハンコを押したために借金を返すハメになった場合を想定してもらえば借入が一方的な債務負担行為であるこ とがよくわかるのではないだろうか)
★p.また、売上は相手に何かをしてあげることだから「ギブ」。ところがどうしても「ギブ」によって得られる成果「テイク」に目がいってしまい、ともすると「売上」の本質を「テイク」と勘違いしがちである。しかし「売上」と表現される行為そのものは明らかに一方的な「ギブ」である。
★q.簿記語録
「費用というのはテイク、何かをしていただいたんです。『感謝』の気持ちがあってもいいんではないでしょうか。『電気』のありがたみ、『修理』してもらった(再び使えるようになった)ありがたみ。それを『修理代○○円・・・。高い!相見積もりをとったらもっと安くやれる』とすぐギブのことを考えてしまうムダ遣いしていい、ということではありませんがテイクしていただいたことにもっと感謝してもいいんではないでしょうか。」「税金もテイクです。どうしても『取られる』ギブの側から見てしまいます。でもテイクなんです。『対価性』は非常に希薄なんですが、してもらうんです。だったら『もっとちゃんとしてよ』こう主張し、監視すべきなんです。
「取引があったら『目的』は何か、なにを『テイク』したのかを考えて下さい。それが簿記で言う『借方』に記録される取引要素、勘定科目です。次にそのための『手段』は何か、なにを『ギブ』したのかを考えて下さい。それが『貸方』に記録される取引要素、勘定科目です。つまり、簿記は取引を『目的(テイク)』『手段(ギブ)』にわけて他の人にもわかる記録として残す技術なんです。」
「簿記は取引の記録だから1ヶ月の仕訳伝票を見ればどんな取引があったのか1ヶ月の動きが簡単明瞭にわかる。」
「よく勘定科目がわからないから仕訳ができない、という人がいます。実務(簿記)は学校の授業ではないんだから答えが一つ、とは限りません。他の人にもわかる科目名を自分で考えてつくればいいんです。短くて、しかも内容がわかり、普遍性がある、そんな科目名を考えられるところにその人の簿記会計センスが表れる、といえますが、長くたってかまいません。科目名にこだわってあまり悩まないようにして下さい。ただし科目名についての標準的な解説をしたものがありますから、辞書代わりお使いになることをおすすめします。でもこれは言葉で言えば『標準語』です。『方言』でも理解できるものであれば誤りではありません。例えば『現金』を『キャッシュ』と書いたら誤りか?少なくとも『×』にはできません。英語だから好ましくない、間違いだ、というんだったらリース料という科目は使っちゃあいけないことになります。」
★ 以下、次回としたいが思いつくまま箇条書きしておきたい。何かアドバイス等いただければ幸いである。
*貨幣取引から信用取引(債権・債務)へ(ここまでは交換取引、ギブ
&テイクでほぼ説明できる)
預金(銀行)取引も信用取引である。
信用取引になって取引先名が摘要の必須記載事項になってくる。さ
らに進めば取引先別台帳(補助簿)の整 備へと発展する。
貨幣取引までは領収書の発行という作業は不要である(その場で支
払うルールしかないから)が信用取引に なると必要な手続きとな
ってくる。
商品と引き換えに対価を受け取らなくなるから納品書、受領書への
サイン(受印)という手続きも必要とな ってくる。
「資産」と「資本(元手)」に新たに「負債」概念が生じる。また
、「資産項目」も種類が増え、現物では ない資産が生じる。
信用取引によりテイクとギブに時間差がでてくる。
「負債」はすべて「将来(未来)のギブ」である。
「資産」は「現在進行形のテイク」と「将来(未来)のテイク」か
ら成り立っている・・・と思うが他にも あるかもしれない。
「資本金」は「過去のギブ」しかし、「剰余金等」は「ギブ」概念
では説明できない・・・と思う。
*信用取引から評価取引へ
評価取引は貨幣以外のものを貨幣金額に置き換えることによって生
じてくる価値の誤差を補正していくもの である。